元来、外界に対する障壁としての役目を果たしている皮膚を介して薬物を吸収させようとする場合には、特に皮膚最上層に位置し、流動性に乏しいことが明らかにされている角質層脂質がバリアーとなっていると考えられる。そのため有効な吸収促進剤の添加が薬物の経皮吸収システムの開発上必要となる。本研究では、現在まで不明な点が多い、薬物の皮膚透過機構、各薬物の経皮吸収に有効な吸収促進剤の選択、吸収促進剤の作用機構等を明らかにする目的で、まず、薬物の経皮吸収の構造活性相関について検討した。モルモット背部摘出皮膚を用いた安息香酸誘導体についてのin vitroでの実験結果より、吸収速度は薬物の油/水分配係数と分子容(量)とによって律せられていることがわかった。また、また吸収促進剤として15%エタノール、1%メントールを加えて検討した結果、親水性薬物において、吸収速度の著しい増加が見られ、吸収速度の油/水分配係数への依存性が大きく減少した。 また、角質層脂質より構成されたリポソームを用い、スピンラベル法により脂質層の流動性の観察を行った結果、メントールの添加により、脂質層の流動性が上昇することが明らかとなり、これが、薬物の透過性の改善に寄与していることが推定された。さらに脂肪酸スピンラベルをモルモット摘出皮膚に添加し、経時的にESRスペクトルの観察を行ったところ、運動性に富む成分と運動が抑制された成分とが観察され、運動性の異なる二つの相の存在が示唆された。また、スピンラベル剤の皮膚内部への浸透に伴って、ESRスペクトルの変化が観察された。
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