現在まで不明な点が多い、薬物の皮膚透過機構、各薬物の経皮吸収の有効な吸収促進剤の選択、吸収促進剤の作用機構等を明らかにする目的で、平成7年度に引き続き、まず薬物の経皮吸収の構造活性相関について検討を行った。モルモット及びラット背部摘出皮膚を用いた安息香酸のモノ、ジ、トリ置換体、パラヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(パラベン)、フルオロウラシル誘導体についてのin vitroでの実験結果より、皮膚透過係数は薬物の油/水分配係数と分子量(分子サイズ)とによって律せられていることがわかった。また、吸収促進剤として15%エタノール、1%Lーメントール+15%エタノール、N-ドデシル-2-ピロリドンを加えて検討した結果、親水性薬物において、皮膚透過係数の著しい増加が見られ、透過係数の油/水分配係数への依存性が大きく減少した。また、エタノール、Lーメントール+エタノールを吸収促進剤として用いた系では、親油性薬物の透過係数が逆に減少することがわかった。 また、角質層脂質より構成されたリポソームを用い、スピンラベル法により脂質層の流動性の観察を行った結果、上述の吸収促進剤により脂質層の流動性が上昇すること、流動性の変化の程度と親水性薬物の皮膚透過係数の増加の程度とはよく対応していることがわかった。脂肪酸スピンラベルをモルモット摘出皮膚に添加し、ESRスペクトルの観察を行った場合、平成7年度の研究ですでに明らかにしているように運動性なる二つの相の存在を示すシグナルが検出されるが、Lーメントール+エタノール等、親水性薬物に対して著しい吸収促進作用を有する促進剤の添加によって、二つのシグナルのうち異方性に富む成分が消失することがわかった。これらの結果よりLーメントール等は角質層脂質の流動性を著しく増大させることにより、親水性薬物の吸収促進作用を示すことが結論された。
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