研究概要 |
1.シスプラチンから誘導したジヒドロキソ架橋複核白金錯体とピラゾールとを反応させて,ピラゾールおよび水酸化物イオンがそれぞれ1分子架橋した白金二核錯体を合成した.生成物の確認は,核磁気共鳴法,赤外吸収スペクトル法,質量スペクトル法,X線構造解析を用いて行った. 2.本複核白金錯体とグアノシン-5′ーリン酸,9-エチルグアニン(9EG),核酸との反応を経時的に高速液体クロマトグラフ法,核磁気共鳴法,円二色スペクトル法により測定し,反応速度論的に解析した.得た結果をシスプラチンの場合と比較し,本複核錯体の核酸塩基に対する反応特性を明らかにした。 3.本二核錯体は,2分子の9EGに対して複核構造を維持したまま結合し核酸塩基錯体を生成した.この結晶のX線構造解析を行い,分子内の2つの9EGがスタッキングしていることを認めた. 4.培養がん細胞に対する細胞毒性を検索し,ピラゾールおよび水酸化物イオンがそれぞれ1分子架橋した白金二核錯体が,シスプラチン耐性L1210細胞に対して強い増殖抑制効果を示すことを認めた. 5.最近の分子生物学的な研究によれば,シスプラチン耐性癌細胞は,核酸の構造的な歪みを確認して白金を切り出す修復酵素を通常の癌細胞より多く有しているといわれている.3.で述べたように複核錯体と9EGとの付加物において2分子の9EGがスタッキングしていることから,本複核錯体は核酸に対して局部的な構造の歪みを与えない可能性があり,そうであるなら本複核錯体による核酸の傷害は修復酵素系から認識されず,修復を逃れることができる。本複核錯体がシスプラチン耐性癌細胞に対して有効である理由は本錯体の核酸に対する結合様式がシスプラチンのそれと大きく異なっているためであると考えられた. 6.以上,本研究は新しい世代の白金制癌剤を開発するための重要な資料を提供すると考えられる.
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