消化管粘膜を中心とした局所免疫系を積極的に利用することにより、ウイルスなどの経粘膜感染予防を目的とした経口ワクチン開発の可能性について検討を行った。今回、粘膜感染防御に重要な役割を果たしていると考えられる分泌型IgA抗体に着目し、オブアルブミン(OVA)をモデル抗原として用い、経口感作後のIgA抗体レベルの変化を観察した。OVAをマウスに3回経口投与した後、1ヵ月後に再び経口的にOVAを投与したところ、血清、唾液、尿及び精液中のIgA抗体レベルに上昇が認められた。これは、経口投与によって各粘膜組織の局所免疫系が感作されたことを示す結果と考えられた。次に性交渉によるHIVなどの感染を考え、経口感作を行ったマウスの尿道及び陰茎表面にOVAによるboostingを行ったところ、尿中にのみIgA抗体レベルの上昇が認められた。このとき経口感作法として、OVAをリポソームに封入し、さらにmuramyl dipeptide(MDP)を添加することにより、booster投与後のIgA抗体レベルの上昇が顕著であった。また、経口感作を1回のみ行ったマウスに比べ、3回感作を行ったマウスにおいて抗体レベルの上昇は有意に高くなった。以上の結果より、有効な経口ワクチンを開発することによって、ウイルスの経粘膜的な感染を予防することが可能であることが示唆された。特に、尿中及び精液中でのIgA抗体レベルが上昇したことよりAIDSなどの性交渉感染の予防の可能性が示されたものと考えられた。また、種々のアジュバントの利用などにより、その効果を増強し得ることが示された。今回の研究結果は、AIDSなどウイルスの粘膜感染によって引き起こされる重篤な疫病に対する経口ワクチン開発の可能性を示した点で意義深いものと考えられる。
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