我々をとりまく環境には、生体にとって有害な薬物やその前駆体がいたる所に存在している。これらの有害薬物に起因する急性な毒性に関しては多くの研究例が報告されているが、これらの物質から生じる微量なフリーラジカルが長年にわたって生体に及ぼす慢性的な影響、例えば、寿命や老化に対してどのような影響を与えているのかについては、全く研究されていないのが現状である。そこで、我々は、環境汚染薬物としてヒドラジン誘導体(フェニルヒドラジン)やニトロソ化合物を取り上げ、これらの物質が実験動物の体内に取り込まれた際に体内でどの程度のフリーラジカルが生成され、また、どの部分にフリーラジカルが局在するのかを、我々の開発した無侵襲ESR測定装置を用いて解析を行い、以下の結果を得た。 (1)フェニルヒドラジンをマウスに投与すると溶血性の貧血を起こすが、in vitro系での結果は、フリーラジカルの産生につれてこの症状は悪化した。そこで、in vivo系でどのようなラジカルが生成しているのかを検討したところ、ヘモグロビンを構成しているメチオニンの側鎖にS・ラジカルが生成していることが明らかとなり、このラジカルが赤血球膜の構造をこわしているものと思われる。 (2)ニトロソベンゼンやニトロソトルエンをマウスの体内に投与すると、これらのニトロソ化合物はマウスの体内の不飽和脂肪酸と反応して、脂肪酸のニトロキシドラジカルが生成することをin vivo系で観測することができた。これらのラジカルに、発ガン予防効果のある海草由来のフコキサンチンを投与したところ、このラジカルを速やかに消失させることができ、現在このラジカルと発ガン効果との関連について検討中である。
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