本研究では、まず第1に、環境を汚染する有害薬物であるニトロソ化合物やヒドラジン化合物が生物体内に取り込まれた際にどのようなフリーラジカル反応が誘起されて、フリーラジカル種がどの組織でどの程度発生するかをin vivo ESRの手法を用いて明らかにすることを目指したものである。そして第2に、近年、非常に着目されている一酸化窒素が生体の代謝や老化にどのように関与しているのか、その基礎情報を得るために、実験動物の体内で発生するNOの検出並びにその局在位置について検討を行った。 1.線虫の体内で生成したフリーラジカル種の同定及びその局在化について:ニトロソベンゼン、ニトロソトルエンなどのニトロソ化合物、及び、フェニルヒドラジンなどのヒドラジン誘導体から線虫の体内で誘起されるフリーラジカルの同定を試みた。ニトロソ化合物からは、主に、ヒドロニトロキシド誘導体が、ヒドラジン化合物からはフェニルラジカルin vivoで観測する事ができた。 2.生体内で誘導された一酸化窒素合成酵素から生成される一酸化窒素(NO)の無侵襲同定:リポポリサッカライドによりマウスの体内で誘導された一酸化窒素合成酵素から生成されたNOをジチオカルバメート鉄錯体を用いてトラップし、そのESRスペクトルからNOの産生量を定量化してみた。NOは、主に肝臓の付近でもっとも多く生成されており、トラップされたNO濃度は肝臓1個の平均で100μMにも達した。 3.生体内でのNO生成部位の無侵襲解析:NO-ジチオカルバメート-鉄錯体はフリーラジカルの性質を持っているため、水の緩和時間を減少させる、いわゆる、核磁気共鳴法でのコントラスト増強剤として働く。我々はこの点に着目し、ラットの体内で生成したNOの分布を核磁気共鳴画像化法(MRI)を用いて、明らかにすることに成功した。
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