研究概要 |
我々はこれまでビタミンE輸送蛋白質(α-tocopherol transfer protein,αTTP)の精製、遺伝子クローニングを世界に先駆けて行ってきた。さらに前年度の研究によってαTTPがヒト先天性ビタミンE欠乏症の原因遺伝子であることをつきとめた。今年度はまず、前年度に調査した地中海沿岸域の患者よりも発症年齢の高い、すなわち軽度のビタミンE欠乏症患者(日本人)のαTTP遺伝子を調べた結果、前者がフレームシフト変異であったのに対して後者は1アミノ酸だけが置換したミスセンス変異であることを見い出した。具体的にはN末端から101番目のHisがGlnに置き換わっており、この残基がビタミンEを結合するのに重要であると考えられる。αTTPのビタミンE認識部位についてはさらに部位特異的変異蛋白質やキメラ蛋白質を用いて解析を行っている。 以上の結果から、αTTPがビタミンEの体内動態を制御する重要な因子であることが明らかになった。しかし、αTTPは肝実質細胞内に存在する細胞蛋白質であり、これが細胞内でビタミンEをどのように輸送して、それが結果的にビタミンEの体内動態の調節に関わっているのか、その機構は全く明らかでなかった。今年度の研究で私は、肝癌由来の細胞株にαTTPを強制発現することによって細胞内に取り込まれたビタミンEがαTTPに依存して細胞外に放出されることを見い出した。細胞内の輸送蛋白質によってそのリガンドが積極的に細胞外へ放出されるといった例はこれまでになく、このようなαTTPの機能は非常にユニークである。またこの結果はαTTPによるビタミンEの細胞内輸送のアッセイ系の確立を意味するものであり、今後はこの系を用いて輸送を制御する分子機構を解明していきたい。
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