α-tocopherol transfer protein(αTTP)は肝臓のサイトゾルの蛋白質であり、α-tocopherolと特異的に結合し、その膜間輸送を促進する活性をもつ。これまでに我々はαTTPが先天性ビタミンE欠乏症の原因遺伝子であることを明らかにしている。この遺伝病患者は一旦肝臓内に取り込まれたα-tocopherolを血液中に再循環する機能が失われており、αTTPが体内を循環するビタミンE量を調節する重要な因子であることが明らかになった。しかし肝細胞内でα-tocopherolの動態がαTTPによってどのように制御されているのかは依然不明である。そこで我々はラット肝癌由来細胞株McARH7777を用いて細胞レベルでαTTPの機能のアッセイを試みた。McARH7777はリポ蛋白質の分泌能を保持した細胞株であるがαTTPは発現していなかった。そこで我々はαTTPを恒常的に発現したMcARH7777細胞を樹立した。さらに放射標識α-tocopherolを用いて、一旦細胞内に取り込まれたα-tocopherolの細胞外への放出をアッセイする系を確立した。その結果、αTTPを発現した細胞ではコントロール細胞に比べて有意にα-tocopherolの細胞外への放出量が増加した。またこの細胞外への放出はbrefeldinAによって阻害されないことからリポ蛋白質VLDLの分泌とカップルしたものではなかった。さらに興味深いことに細胞内コレステロールの代謝調節作用があることが知られている25-OH cholesterolによってα-tocopherolの細胞外への放出が有意に抑制されることを見いだした。すなわち、αTTPによるα-tocopherolの細胞外への放出はゴルジ体を介さない新たな脂質輸送経路を介し、しかも細胞内コレステロール輸送系とクロストークしている可能性が示唆された。この輸送経路の実体は明らかでないが、最近αTTPのアフィニティーカラムで精製した膜表在性蛋白質p50が解明の糸口になるのではないかと期待している。
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