研究概要 |
本研究では、血管内皮細胞および白血球(顆粒球、単球)における組織因子(Tissue Factor,TF)の発現調節機序や機能、ならびにTFによる血管内凝固亢進や血栓形成機作についてin vitro,in vivo双方から解析する。更に、こうした基礎知見を基に、凝固異常-血管障害や血栓症の予防と治療を目指した新たな創薬デザインを計る。この研究目的に沿って、H7年度ならびにH8年度の研究では以下の点を明らかにした。 1.ヒト血管内皮細胞でのTFの解析法として、ELISA、Flow-cytometer、procoagulant assayならびにRT-PCR法を確立し、TFのタンパク質および遺伝子レベルでの解析を可能にした。 2.活性化内皮細胞で新生され細胞表面に発現されたTFは、その60%がendocytosisによって分解・消去されるが、残りの40%は細胞表面からvesicleとして放出されることが明らかとなった。 3.内皮細胞でのTF発現には血流(dhear stress)が大きく影響し、血流速度の上昇によって顕著なTF遺伝子の発現抑制が認められ、内皮細胞がshear stressに依存した遺伝子発現機構を備えていることが示された。 4.サルおよびウサギを利用したin vivo実験から、内皮細胞-白血球相互作用により顆粒球での新たなTF発現機構を見出し、この顆粒球TFが炎症反応に見られる凝固異常亢進や血管障害の要因で有ることを示した。更に、抗PAF薬剤が内皮細胞-白血球相互作用を強く阻害し、顆粒球TFの発現抑制を通じて凝固亢進や血栓形成を防止することを見出し、抗PAF薬剤による脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓症予防の可能性が示唆された。
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