腸炎ビブリオと黄色ブドウ球菌は我が国における代表的な食中毒および院内感染(特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)原因菌である。前者は生育にNa+を必要とし、後者はNa+耐性を示す。このような特徴をふまえ、本研究では、これらの細菌におけるNa+輸送系を中心とするいくつかのイオ輸送系について、生理学面、生化学面、分子生物学面から解析し、これらの細菌の好塩性、耐塩性とイオン輸送との関係を詳細に検討した。 まず、腸炎ビブリオのNa+/H+アンチポーター(NhaB系)(Na+の排出系)の遺伝子がクローニングできた。次にこの遺伝子のシーケンシングを行い、NhaB系の一次構造を明らかにし、構造と機能の関係について解析した。そして、すでに解析している第一のNa+輸送系(NhaA)との比較を行った。特に、両者において機能ドメインの解析や構造と機能の関係の解析をアミノ酸残基レベルで行った。さらに、腸炎ビブリオの新しいNa+輸送系(NhaD系)の存在を明らかにし、遺伝子クローニングと構造解析を行った。そしてこれらの系がこの菌の耐塩性と深くかかわっていることを明らかにした。一方、Na+/グルコースシンポーターに関しても構造と機能の関係について解析が進んだ。 一方、黄色ブドウ球菌のNa+輸送系の解析については、反転膜小胞の作製法を開発することができ、その反転膜小胞を用い、この菌にもNa+/H+アンチポ-タが存在することがわかった。そしてこの系の生化学的性質を明らかにした。そして、その生化学的性質が明らかになった。またその遺伝子クローニングができ、構造解析が進んだ。その結果、黄色ブドウ球菌にはこれまでに生物界で知られていない全く新しいタイプのNa+排出系が存在することがわかった。そしてこの系が耐塩性に極めて重要な働きをしていること、およびアルカリ性条件下での生育(おそらく細胞内pH調節)に深く関わっていることが明らかになった。
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