動脈硬化の発生機序において血管平滑筋の遊走や増殖が主要現象であることは広く認められている。これに種々のサイトカインや増殖因子が関与するが、未知因子の寄与も推定されている。近年、生理活性リン脂質として注目されているリゾホスファチジン酸(LPA)が培養血管平滑筋細胞の増殖を誘導でき、循環血液中で生成しうることを考え合わせると、本活性リン脂質がこの病態の発生や進行に何等かの役割を果たす可能性は高い。本研究では種々の病態モデル(高血圧、高脂血症)及び臓器摘出ラット(腎、副腎)の血漿中のリゾホスホリパーゼD(LPLD)活性を比較し、本酵素源の特定や脂質代謝異常を伴う各種病態との関連性を調べた。 Wistarラットの5/6の腎を摘出し7日後にヘパリン血漿を調製したところ、そのリゾホスホリパーゼD活性はコントロール動物での値と比べて大差はなかった。副腎摘出7日後の血漿LPLD活性はコントロール値の3.4倍に高まっていた。しかし、この副腎摘出ラットの新鮮血漿中のリゾホスファチジルコリン量は大幅に低下しており、これが原因でみかけの酵素活性が上昇したものと思われる。それゆえ、腎や副腎も本酵素の産生源ではないと考えられる。高脂血症のモデルである長瀬無アルブミンラットの血漿LPLD活性は対照のSprague-Dawleyラットより有意に低下していた。これらの酵素に共通の基質であるリゾホスファチジルコリンは通常のラットでは主としてアルブミンと結合しているが、上記の結果はこれらの酵素反応においてアルブミンが必須の因子ではないことを示唆している。30週齢の高血圧自然発症ラット(SHR)のLPLD活性はWistarラットの活性の約2倍であったが、対照のWistar Kyotoラットとの間には有意な差は認められなかった。
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