動脈硬化は、年々患者数が増加している心血管や脳血管性疾患の主因となる病態である。本研究では、新規生理活性リン脂質リゾホスファチジン酸(LPA)が、この病態の発症や増悪に関与する可能性を検討した。高血圧自然発症ラット(SHR)とその対照動物(WKY)の胸部大動脈中膜より酵素法にて血管平滑筋細胞を単離後、継代培養しLPAに対する増殖応答を比較した。LPAを含む培養液中では、WKY由来の細胞に比ベSHR由来の細胞の方がはるかに高い速度で培養液に添加した[^3H]チミジンを取り込みDNAを合成した。また、LPA刺激後、両群の細胞数を測定したところ、SHRより単離した細胞の方がWKYの細胞よりも数が有意に高かった。DNA合成と細胞分裂の両指標についてLPAの濃度依存性を調べたところ、SHR由来の細胞ではどちらの濃度作用曲線もWKYの細胞の場合より左にシフトし、最大反応値が増加しEC_<50>値が減少することが明らかとなった。 リゾホスホリバーゼD活性を測定するため、放射標識したリゾホスファチジルコリン(1-パルミトイル)をラット血漿に添加後、37℃で保温し生成するLPAを定量した。その結果、ラット血漿リゾホスホリパーゼD活性は動物の週齢と無関係で一定であること、並びにSHRとWKYの間にも有意な差が認められないことが明らかとなった。 以上の検討結果より、SHRでは、血管系でのLPA産生の促進よりは、むしろ血管平滑筋細胞のLPA受容体の過剰発現やそれに続くシグナル伝達系の変動を介して細胞の異常増殖を誘導することにより、動脈硬化の発症に関与する可能性が示唆された。
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