研究概要 |
【目的および方法】血行力学因子(血圧や血流等),例えば伸展(ストレッチ)等の機械的刺激は血管組織を構成する平滑筋・内皮細胞等の細胞接着機構に著しい影響をおよぼす。接着班を形成するチロシンキナーゼの一種である接着斑キナーゼ、並びにインテグリンが、細胞外マトリクスと相互作用し、伸展刺激の感受部位(センサー)として機能する可能性を想定した。本研究では、ラット摘出脳血管を用い、血管経を連続的に測定した。作用機序の異なる三種類のチロシンキナーゼ阻害薬(herbimycin A、genistein及びtyrphostin 23)とチロシンホスファターゼ阻害薬(sodium orthovadate)の圧誘発性収縮、脱分極刺激及び薬物受容体刺激(thromboxane A2誘導体、U46619)による収縮に対する作用を比較検討した。 【結果】Herbimycin Aは、圧誘発性収縮のみを特異的に抑制した。Genisteinは、圧誘発性収縮とU46619による収縮を抑制した。Tyrphostin 23は、圧力、KCl及びU46619によって誘発される収縮を全て有意に減弱させた。さらに、sodium orthovanadateは、圧誘発性収縮を有意に増強させ、herbimycin A及びgenisteinの前処置でこの増強は抑制された。 [【考察】ラットの脳血管における圧誘発性収縮には、herbimycin A感受性チロシンキナーゼが特異的役割を演じていることが示唆された。 本研究の成果は学術英語論文として発表される。さらに、本研究者は第70回日本薬理学会シンポジウム(幕張メッセ、千葉、平成9年3月23日)"メカニカルストレスと細胞反応:生理・薬理学的意義"を組織し、本方面における研究を牽引する。また、現在、機械的刺激に応答した血管収縮機構におけるチロシンリン酸化の役割を、分子生物学的手法により明らかにする研究や実験的肺高血圧症ラットを用いた病態動物の血管反応における検討に関する研究が進展中である。今後の発展が期待できる。
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