ヒト前骨髄救性白血病細胞(HL-60)はレチノイン酸処理により、顆粒球に分化する。この細胞分化に伴って細胞増殖は停止すると共に、細胞増殖必須遺伝子の発現が抑制される。本研究においては、その発現抑制の分子機構を明らかにするため、まずこの細胞分化の実験系において、代表的な細胞増殖必須遺伝子であるヒトチミジル酸合成酵素(TS)遺伝子の発源がmRNAのレベルで抑制されることを確認した。次に、最近見出された各種のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)インヒビターのうち、代表的なp21(Sdi1/Cip1/Waf1)、p57(Kip2)及びp61(INK4/Mts1)について、この細胞分化の過程におけるそれらCDKインヒビターmRNAの発現量の変動をノーザンブロット法で解析した。その結果、調べたCDKインヒビターのうちp21のmRNA発現量のみがTS mRNAの発現量と逆の相関を示した。しかし、p57とp16の場合には発現量が非常に低いので、さらにRT-PCR法による解析・確認が必要であり、その点を新たにp27(Kip1)も含めて現在検討中である。 一方、細胞分化に伴うTS遺伝子の発現抑制における特定のCDKインヒビター分子種の関与を明確に示す目的で、発現ベクターに組み込んだアンチセンスCDKインヒビターcDNAをもつHL-60細胞の形質転換株の作製を試みた。そのためにまず、コントロールとしてβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含む発現プラスミドを、トランスフェリンフェクション法でHL-60細胞にトランスフェクトする条件の検討を行った結果、この方法による遺伝子の移入・発現が確認された。現在、形質転換株の選択の条件について検討中である。この形質転換細胞を得ることは、細胞分化に伴う細胞増殖必須遺伝子の発現抑制の分子機構、特にCDKインヒビターの関与・役割を明らかにする上で重要である。
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