ダイノルフィン(Dyn)を脊髄クモ膜下腔内(i.t.)に投与した際の侵害刺激抑制作用に対する各種プロテアーゼ阻害剤の効果についてマウス・ホルマリン試験を用いて検討した。Dynの侵害刺激抑制作用の持続時間はシステインプロテアーゼ阻害剤であるp-ヒドロキシメルクリ安息香酸(PHMB)およびエンドペプチダーゼ24.11阻害剤であるホスホラミドンによって有意に延長された。しかしながら、セリンプロテアーゼ阻害剤のフッ化フェニルメタンスルホニル、アミノペプチダーゼ阻害剤のベスタチンおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤のカプトプリルは、Dynの作用に対し無影響であった。Dynの代謝産物であるロイシンエンケファリン(Leu-Enk)およびLeu-Enk-Arg^6は侵害刺激抑制作用を示さなかったが、Leu-Enk-Arg^6はホスホラミドンとの併用により有意な侵害刺激抑制作用を示した。従って、ホスホラミドンによるDynの作用の持続化はLeu-Enk-Arg^6の分解阻害に起因することが示唆された。さらに、PHMBの侵害刺激に対する効果についてマウス・カプサイシン試験を用い、ベスタチン存在下におけるホスホラミドンの効果と比較検討した結果、PHMBおよびベスタチン存在下のホスホラミドンは、いずれも侵害刺激抑制作用を示した。PHMBおよびホスホラミドン/ベスタチンの侵害刺激抑制作用はそれぞれκ受容体アンタゴニストのnor-BNIおよびδ受容体アンタゴニストのナルトリンドールで完全に拮抗された。以上の結果から、Dynの侵害刺激抑制作用の消失にシステインプロテアーゼが重要な役割を担っており、ホスホラミドン/ベスタチンの侵害刺激抑制作用は内因性エンケファリンの分解阻害に起因するのに対し、PHMBは内因性ダイノルフィンの分解を阻害し侵害刺激抑制作用を発現することが判明した。
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