ラット肝臓ヒドロキシステロイドスルホトランスフェラーゼ(ST)のcDNAを大腸菌内で発現させた組替え体STは、dehydroepiandrosterone(DHEA)とcortisol(CS)に対してST活性を示す。今回我々は、このcDNAを用いて、部位特異的変異誘発の手法により種々の変異体を作製した。過去の研究成果に基づき、histidine残基の変異株を調整し活性に与える影響を調べた。その結果、98番目のhistidine残基をalanineやlysineに変換したもの(H-98変異体)では、DHEAやCSに対するST活性が完全に失われることが明らかになった。また、ST活性の補酵素である活性硫酸(PAPS)に対する親和性を、PAP-agaroseアフィニティーゲルを用いて検討した。その結果、野生株はこのアフィニティーゲルに吸着し100μMのPAPで特異的に脱着され溶出されるのに対して、H-98変異体ではまったく吸着されなかった。したがって、98番目のhistidine残基は、PAPS総合部位に関与するかまたはその構造を保持するために重要な残基であると考えられる。一方、255番目のasparagine残基をalanineに変異したものは、CSに対するST活性のみが約1/5に減少していた。速度論理的解析から、この変異株ではCSに対するKm値のみが野生株に対して有意に増加しており、PAPSやDHEAに対するKm値は変化していないことが明らかになった。したがって、野生株のSTではDHEAとCSに対して異なる結合部位を持っており、255番目のasparagineはCS結合部位に特異的に関与しているものと考えられる。
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