トランス型のレチノイン酸(all-trans retinoic acid;ATRA)が急性前骨髄球白血病(APL)患者に著効を示すことが明らかとなり分化誘導療法に光明を与えることになったが、その有効性はAPLに限局されており、患者数の多い骨髄芽球、単芽球の分化段階にある白血病に対しては、ATRAを含め有効な分化誘導剤は開発されていない。本研究では急性骨髄性白血病に対する分化誘導療法の新しいストラテジーを確立することを目的としてin vitro培養系でヒト骨髄性白血病細胞ML-1を顆粒球方向へ分化誘導することを試みた。その結果レチノイン酸とGM-CSFを併用すると顆粒球の特徴である分葉核あるいは棹状核をもった細胞が多数出現し、顆粒球がもつ表面抗原(CD15)が現われた。この時、C-mycやmybなどのがん遺伝子の発現が24時間以内に著しく低下し、DNA合成活性が著しく低下した。またアポトーシスを抑制するbcl-2遺伝子の発現が低下し、一週間後にはほとんど消失した。新規レチノイド誘導体Am80、Re80はGMCSF存在下ATRAより低い濃度で分化を誘導した。レチノイドシナージストのHX600はGM-CSFとATRAとの3者との併用で相乗効果を示した。分化課程における細胞周期関連遺伝子の発現変動を解析した。細胞周期制御の中心的役割を持つpRbが活性型の非リン酸化タイプに変換することが明らかになった。Cyclin D3とcdc25Aの発現が減少した。一方、7種のcdkインヒビターの発現変動は認められなかった。この分化課程にはcyclin D3、cdc25Aの発現抑制とpRbの活性化が関与している可能性が示唆された。レチノイン酸とGM-CSF併用でテロメラ-ゼ活性が相乗的に抑制され、6日後には活性がほとんど消失した。以上の結果より、ヒト骨髄性白血病細胞ML-1はレチノイン酸とGM-CSF併用で顆粒球方向に分化誘導され、様々な点で悪性度が低下することが示唆された。
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