我々はエンドトキシンショックを引き起こしたモルモット腹腔液よりPAF-アセチルハイドロラーゼを精製する方法を確立しており、今回のモルモット血漿からの精製は、この方法に従って行なった。その結果、血漿を酵素源とした場合にも電気泳動上単一性を示す酵素標品を得ることができた。またその分子量は63kDaと推定された。精製酵素のN末端アミノ酸配列分析を試みたところ、N末端部は何からの修飾を受けていると考えられ決定できなかった。そこで、リジンエンドペプチダーゼ処理を行うことにより酵素を断片化し、各々のペプチドフラグメントを逆層HPLCで分離した。分離されたペプチドフラグメントのうち、9個についてそのアミノ酸配列を気相法プロテインシークエンサーを用いて明らかにすることができた。部分アミノ酸配列に基づいて縮重オリゴヌクレオチドを合成し、モルモット肝臓mRNAより調整したFirst strand cDNAをテンプレートとしてPCRを行った結果、約600bpの特異的cDNAフラグメントが得られた。このPCR産物がモルモット血漿PAF-アセチルハイドロラーゼのcDNAの一部であることは、センスプライマーの合成に用いたアミノ酸配列を含むペプチドフラグメントが持つ別のアミノ酸配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとしてサザン解析を行なうことにより確かめられた。そこでこのPCR産物をプローブとしてモルモットおよびヒト肝臓のcDNAライブラリーを30万pfuおよび100万pfuスクリーニングした結果、それぞれ4クローンおよび2クローンのcDNAを単離することができた。モルモットクローンについてはFull-length cDNAは得られなかったため、5'-RACE法により失われている5'上流部分のcDNAを調整し、両断片に共通の制限酵素サイトを利用してFull-length cDNAを再構築した。一方、ヒトクローンに関しては1クローンがFull-length cDNAであることが明らかとなった。DNA塩基配列分析の結果推定される両酵素の一次構築を比較すると、アミノ酸レベルでは67%のホモロジーを有するものの、ヒト酵素の推定分子量(45kDa)は、酵素精製の結果(44kDa)とよく一致するのに対し、モルモット酵素の推定分子量(49kDa)は、酵素精製の結果(63kDa)よりかなり小さく、モルモット酵素はヒト酵素と異なり蛋白分子に糖鎖結合などの修飾が行われていることが示唆された。
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