交付申請書に述べた仮説のうち、本研究ではオピオイドκ受容体アゴニストであるdynorphin A-(1-13)が海馬の神経活性に及ぼす作用における内側中隔海馬神経路の役割について、無麻酔無拘束ラットならびに麻酔ラットを用いて電気生理学的手法により検討した。また正常ラットとガラニン誘発健忘モデルラットでの比較を行った。 【無麻酔無拘束ラット】1.内側中隔を電気刺激したときに海馬CAl野および海馬台に誘発される場電位に対して、脳室内に微量注入したdynorphin A-(1-13)は3μgでは影響を及ぼさず、10μgではその振幅を増大させた。一方、神経ペプチドの1つで内側中隔海馬神経路を抑制して健忘を発現すると考えられているgalaninの脳室内微量注入ではこの場電位が減少したが、dynorphin A-(1-13)の3μgを併用するとこの減少が見られなくなった。2.睡眠時に内側中隔野をθリズムで高頻度刺激すると上述の場電位が増大する現象が見られるが、覚醒時やgalaninの脳室内微量注入後ではこの高頻度刺激の効果が抑制されている。脳室内にdynorphin A-(1-13)を注入しておくと、覚醒時に高頻度刺激を与えても場電位が増大する例がみられた。 【麻酔ラット】1.dynorphin A-(1-13)を内側中隔に微量注入して海馬内神経連絡に対する影響を調べた。この結果、CA3野からCA1野への興奮性シナプス伝達を促進し、paired-pulse促進効果は減弱させることが示された。2.CA1野の単一神経発火頻度は、dynorphin A-(1-13)を内側中隔に微量注入すると抑制された。 以上より、dynorphin A-(1-13)は内側中隔海馬神経路を促進することで抑制性介在神経を抑制し、海馬内興奮性シナプス伝達を促進することが示唆された。
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