研究概要 |
1.ホスホリパーゼA_2の触媒機構の解明に関する研究 これまでの我々の研究によって、オキサゾリジノン環を持つリン脂質アナログがPLA_2の酵素活性を拮抗的に阻害すること報告した,そこで次に、この基質アナログを基本構造として数種の基質アナログを合成し、PLA_2に対する阻害活性を測定した。その結果,オキサゾリジノン型基質アナログの5員環部分をオキサゾリジノン環,ピロリジン環,またはピロリジノン環に置換した化合物はPLA_2の酵素活性をほとんど阻害しなかった。この結果から,オキサゾリジノン型基質アナログでは5員環部分のケト基とエーテル基の酸素原子が酵素との結合に関与すると考えられた。 また、PLA_2活性を阻害したオキサゾリジノン型基質アナログは,オキサゾリジノン環の4位にホスホコリンが結合している.そこで,ホスホコリンの結合する位置を5位に置換した基質アナログを合成し,PLA_2の阻害活性を測定した(このアナログはオキサゾリジノン環の4位と5位に不斉炭素を持ち4種類の光学異性体が存在する。また,5位はリン脂質に置き換えると2位に,4位は1位に相当する)。その結果,4位がRの配置を持つ異性体は,5位の立体配座に係わらずオキサゾリジノン型基質アナログと同程度の阻害活性を示した。天然のリン脂質では2位の立体配座がPLA_2活性に重要であるが,今回合成した基質アナログはリン脂質の2位に相当する部位ではなく,1位に相当する部位の立体配座が,PLA_2との結合に関与するという結果は非常に興味深い。今後は,この基質アナログとPLA_2との結合様式を明らかにしていく予定である。 2.ホスホリパーゼCの触媒機構の解明に関する研究 スフィンゴミエリンを加水分解するホスホリパーゼCは一般にスフィンゴミエリナーゼ(SMase)と呼ばれている。我々は,SMaseの触媒機構を解明するために,必須金属であるMg^<2+>との結合について実験を行った。その結果,SMaseには少なくとも低親和性と高親和性の2つのMg^<2+>結合部位が存在し,低親和性部位に対するMg^<2+>の結合のみが酵素活性に影響を与えることがわかった。また,低親和性部位に対するMg^<2+>の結合は酵素と基質との結合には関与せず触媒活性を増大にさせることが明らかになった。さらに,酵素反応パラメータのpH依存性を調べたところ,酵素と基質との結合には1つの解離基が、触媒活性には3つの解離基が関与することがわかった。 次に、126番目のAspをGlyに置換したD126G SMaseを用いてWild-Typeの結果と比較したところ,126位のAspはMg^<2+>結合には影響をおよぼさないが、酵素と基質との結合、および触媒活性に影響することがわかった。しかし,酵素反応パラメータのpH依存性の結果からこのAspは触媒活性や基質結合に必須ではないことがわかった。
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