抗精神病薬ハロペリドール(HP)の長期投与時にみられる遅延性ジスキネージアやパーキンソニズムなどの神経毒性発現と関連するカチオン性代謝物生成(HPP^+)に関与する薬物代謝酵素系について、昨年度の成果にもとずき、今年度は次に示す項目を検討した。1)HPP^+生成におけるHPの脱水化合物HPTPの関与:昨年の実験結果では、HPおよびHPTPからHPP^+の生成には肝CYP3A分子種が共に主として関与している事を明らかにした。しかし、Piperidinol化合物であるHPの脱水化合物HPTPが中間代謝物として存在するかどうかは、HPP^+生成に関与する薬物代謝酵素系を解明する上で重要である。in vitroおよびin vivoの系におけるHPおよびHPTPからHPP^+の生成活性および生成量について比較した結果、両基質のHPP^+生成反応に関するKmおよびVmax値はほぼ同じであり、また尿中排泄量もほぼ同量であった。またNADPH依存反応系において、HPを基質とした時、中間代謝物として微量であるがHPTPの生成を確認した。HPおよびHPTPからHPP^+の生成が速度論的に同じであることから、脱水反応が優先的に進行し中間代謝物HPTPを介してカチオン性代謝物が生成されるとは考えにくく、おそらく環状アミン構造部分におけるα炭素の酸化が主として進行していると推定された。2)カチオン性代謝物の脳組織内移行:HP、HPTPおよびHPP^+を腹腔内投与し、動物脳組織内HPP^+濃度について比較した。HPTP投与後の脳において、HP投与およびHPP^+投与に比べ有意に高いHPP^+濃度を示した。また、HPP^+投与動物脳から低濃度のHPP^+が検出された。これらの結果から、HP投与後、動物脳組織で検出されるHPP^+は、脳組織内酵素による生成およびあるトランスポーターを介した脳組織へ移行した結果である事が推定された。
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