今回の研究課題で得られた新たな知見等の成果は以下に示す通りである。 1.腎臓、骨及び小腸型のアルカリ性ホスファターゼ(ALP)を発現している培養細胞や組織にホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI-PLC)やグリコシルホスファチジルイノシトール特異的ホスホリバーゼD(GPI-PLD)を作用させると、ALPは完全に可溶化された。 2.約15種のHeLa細胞について酪酸処理によるALPの誘導能を比較すると、HeLa原株に最も近いHeLa229細胞で特に高いことが判明した。酪酸などの薬剤によるALPの誘導は、質的変化説が提唱されている。胎盤型ALPを発現しているHeLa229細胞を酪酸処理した場合のALP発現量の変化を調べた。その結果HeLa229細胞のALPは経時的に細胞表層に出現することが判明した。また転写や蛋白合成を阻害する試薬を共存させると酪酸によるALP活性の上昇は阻害された。以上の事実はALPの誘導が転写レベルにおける変化であり、量的変化であることを示唆している。 3.HeLa229細胞において酪酸で誘導されるALPにPI-PLCやGPI-PLDを作用させると酪酸未処理の細胞では約50%、酪酸処理の細胞では10〜30%のALPが可溶化された。以上の結果はPI-PLCやGPI-PLDに対して感受性の異なるALPがHeLa229細胞には存在していることを示唆している。 以上の事実は胎盤型ALPを発現しているHeLa229細胞では、腎臓及び小腸型のALPを発現している培養細胞や組織に比較して、ALPの膜結合様式が多様であることを示唆している。
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