本研究では当初の実験計画に従い、多価カチオン型薬物のラット小腸刷子縁膜および側底膜透過機構の解明について検討を進めている。平成7年度は、刷子縁膜透過に関してはウイルソン病治療薬であるトリエンチンを用い、側底膜透過に関しては生体内ポリアミン類を用いて検討した。 その結果、トリエンチンのラット小腸刷子縁膜透過は、1)小胞内濃縮 2)温度依存性 3)pH依存性 4)拡散電位非依存性 の点で、類似化合物であるスペルミンの特徴と一致した。また、トリエンチンの刷子縁膜透過は、スペルミンなどによって濃度依存的に阻害され、その阻害形式は拮抗型を示した。以上の結果より、トリエンチンは生体内ポリアミンと共通する膜透過機構によって、小腸上皮細胞内に輸送されていることが明らかとなった。これらの結果は関係学会(日本薬学会)に発表するとともに雑誌(Journal of Pharmacy and Pharmacology)に公表予定(印刷中)である。 また、生体内ポリアミン類のラット小腸側底膜透過実験により、プトレッシンは内向きナトリウム勾配を駆動力とした担体輸送系によって、血管側から小腸上皮細胞内に輸送されていることが明らかとなった。また、プトレッシンの輸送はジアミン型化合物によって阻害されたのに対し、トリおよびテトラアミン型のスペルミジン、スペルミンによっては阻害されず、ジアミン型化合物に特異的な輸送系であることが示された。これらの結果は関係学会(日本薬学会)に発表するとともに、雑誌(Pharmaceutical Sciences)に公表した。
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