本研究では当初の実験計画に従い、ラット小腸刷子縁膜および側底膜、ならびにラット腎近位尿細管上皮細胞刷子縁膜小胞を用い、ポリアミン型薬物をジ、トリおよびテトラアミン型に大別し、その膜透過機構に関して分子構造の違いによる観点から検討を進めてきた。 【小腸刷子縁膜を用いた検討】ジアミン型薬物の膜透過速度は、各薬物の脂溶性に依存していた。一方、トリおよびテトラアミン型薬物はジアミン型薬物に比較して脂溶性が極めて低いにもかかわらず、ジアミン型薬物とほぼ同等の膜透過速度を有していた。また、ジアミン型薬物の膜透過速度は負の拡散電位により増加し、この増加量と各薬物の脂溶性との間には極めて良好な正の相関が認められた。これに対し、トリおよびテトラアミン型薬物の膜透過速度は拡散電位の影響は受けなかったが、この原因は各薬物の脂溶性が極めて低いためであることが示唆された。さらに、いずれのポリアミン型薬物の膜透過も、膜表面電位に強く依存していることが示された。 【小腸側底膜を用いた検討】小腸側底膜にはジアミン型薬物であるプトレッシンを認識する輸送担体が存在することが示された。この担体は内向きNa勾配を駆動力としてプトレッシンを細胞内へ輸送しており、他のジアミン型薬物によってその輸送は阻害された。一方、トリおよびテトラアミン型薬物は、プトレッシンの輸送には何ら影響を与えなかったことから、この担体はジアミン型薬物を選択的に認識することが示唆された。 【腎近位尿細管上皮細胞刷子縁膜小胞に関する検討】 自己を基質とした対向輸送の検討より、スペルミンおよびトリエンチンを選択的に認識する輸送担体の存在が示された。さらに、in vivoにおけるクリアランス実験より、この担体はポリアミン型薬物の尿細管分泌に寄与していることが示された。
|