研究概要 |
1,25-ジヒドロキシビタミンD3はカルシウム代謝を調節するホルモンであるが、それ以外にも細胞の分化誘導や免疫調節作用など多様な生理作用を持っている。それらの作用は、1,25-ジヒドロキシビタミンD3が標的細胞の核内に存在するレセプター(VDR)に結合し、標的遺伝子の転写を制御することによって発現される。本研究は、1,25-ジヒドロキシビタミンD3がVDRや血液中のビタミンD輸送蛋白(DBP)とどのようなコンフォメーションで結合しているか明らかにすることを目的として行なった。 ビタミンD分子をコンピューターを用いてコンフォメーション解析した結果、側鎖部分が占める空間領域が大きく分けて4つあることが明らかとなった。そこで、各々の領域に側鎖の動きが制限された4つの配座制御アナログを論理設計し、それらの全てを、我々の開発した、有機銅試薬のエノンへの面選択的共役付加反応、を鍵段階として立体選択的に効率良く合成した。合成したアナログのVDRおよびDBP結合活性の検討の結果、VDRおよびDBP結合に重要な領域が明らかとなった。更に、合成した4つのアナログのうち1つは、native hormone である1,25-ジヒドロキシビタミンD3の20倍の受容体結合活性を示し、史上最強の受容体結合活性をもつ化合物であることが明かとなった。本化合物は、新しい医薬品開発、遺伝子発現機構解明のプローブとなるレガンド開発などへの展開が期待され、現在国内及び国際共同研究を実施中である。 上述のごとく、著者は、コンピューター支援によるコンフォメーション解析と分子設計、合成、により、VDR結合に必須であるビタミンDの立体構造を提案することに成功すると同時に、史上最強の受容体結合活性をもつ化合物の開発に成功した。
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