研究概要 |
近年の遺伝子工学の進展に伴い,ヒト型抗体,低分子化抗体の利用が可能となり,マウス抗体の臨床使用で問題とされてきた多くの問題が解消された.こうした背景から,ラジオアイソトープ(RI)標識抗体の投与で観察される肝臓への非特異的な放射能滞留を解消するRIと抗体との結合方法の開発により,RI標識抗体の臨床診断さらには治療への応用が大きく進展する.申請者らはこれまでに,RI結合ポリペプチドの投与による肝臓の放射能滞留は,標識に使用した試薬に由来する放射性代謝物の細胞内挙動が大きな影響を及ぼすことを明らかにした.また,固形腫瘍に対する抗体の多くは腫瘍細胞内へ取り込まれない,あるいは取り込まれてもその速度は緩徐である.以上の知見から,肝細胞から速やかに尿中へ排泄を受けるメタヨード馬尿酸を肝臓のリソソーム代謝において抗体から速やかに遊離する標識試薬の開発を行った.一方,抗体分子による標的組織への十分な放射能送達には,血液中では抗体とメタヨード馬尿酸とが安定な結合を維持することが必要である.上記の要件を満たす標識試薬の探索から,L-リジンのεアミノ基をタンパク質と結合の可能なマレイミド基を変換し,αアミノ基とメタヨード馬尿酸とをペプチド結合で架橋した標識試薬(HML)を開発した.ガラクトース結合アルブミンを用いた検討から,HMLを用いて作製した放射性ヨウ素標識NGAは,血液中ではNGAとヨード馬尿酸との安定な結合を維持するが,肝実質細胞のリソソーム代謝では,エステル結合と同じ速度でメタヨード馬尿酸を選択的に遊離することを明らかとした.さらに抗体を用いた検討を行ったところ,本標識抗体は,これまで開発された標識抗体に比べて標的組織へ遙かに選択的な放射能集積を示すことが明らかとなった.以上の結果は,HML標識抗体を用いた癌の画像診断のみならず治療への応用性を示すと共に,本標識抗体の設計の妥当性を示すものである.
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