核酸の特定の塩基配列や高次構造を認識・変換し、対応する遺伝子発現を制御する化合物の開発は、エイズなどの遺伝子疾患と密接に関連して、現在最も重要な課題である。本研究は、大環状亜鉛錯体の核酸塩基認識能に基づいて、より高次の核酸の特定塩基配列や高次構造を認識・変換し、タンパク質生合成をはじめとする遺伝子発現過程を調節・制御できる新しい医薬機能性分子を創製することを最終目的とした。以下に成果をまとめる。 1.コンピューター計算による設計に基づく新規機能性錯体の合成 ジヌクレオチド構造の認識を目的とする、亜鉛二核錯体や亜鉛-白金二核錯体を合成した。また、核酸塩基のp-平面、リボースリン酸との有効な相互作用が期待される亜鉛錯体を、ナフタレン誘導体から数工程で合成することに成功した。 2.核酸塩基および塩基配列認識能、核酸高次構造認識能 上記錯体による核酸(主にモノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ホモポリマー)の塩基配列および高次構造認識能を、pH滴定、UV、CD、融解温度測定などにより明らかにした。 核酸を用いる生化学的機能の検討、およびその反応機構の解明 上記亜鉛錯体のRNA、DNAのハイブリッド形成阻害、タンパク合成阻害などの生化学実験を行ない、その阻害活性が亜鉛錯体に特異的であることを見出した。また、これらの錯体が核酸中のAT-richな部分を融解することを見出した。この結果は、亜鉛錯体が転写調節領域のAT-richなドメインの制御を行える可能性があることを示している。
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