研究概要 |
1993年にクローニングされたDuffy cDNAは、5′および3′の非翻訳領域を含めて1エキソンで構成されていたが(Blood 85:622-626,1995)、Duffy遺伝子転写物について5′末端の再検討を行ったところ、従来のcDNAとは5′側の202塩基が異るcDNAを見いだした。置き換わった配列が本来の第一エキソンとして同定され、従来のcDNAにおいて転写開始部位とされていた場所より約300塩基上流に位置していた。Duffy遺伝子は赤芽球系細胞だけでなく血管内皮細胞にも発現していることが明らかにされたが、それぞれの主な転写開始部位は約60塩基離れて存在し、その中間に、赤血球特異的遺伝子制御領域に共通して存在するシス配列であるGATA配列が見いだされた(Blood 87:378-385,1996)。アフリカ系民族に高頻度で見いだされるDuffy陰性者は赤血球上のDuffy抗原を欠損するが、血管内皮には発現を認める。Duffy陰性者では、GATA配列内に一塩基置換が見いだされ、このことが赤血球特異的な抗原欠損のメカニズムであろうと予想された。そこで、新たな第一エキソンの上流の配列をCATプラスミドに挿入し、Duffy遺伝子の発現制御機構について検討を行った。その結果、Duffy陰性者に見いだされた変異を導入したCATプラスミドは赤芽球系細胞における転写活性をほぼ完全に失ったが、血管内皮細胞では転写活性は保たれ(Biochem Biophys Res Commun 222:852-859,1996)、Duffy陰性者における抗原発現の結果を裏付けた。さらに、Duffy遺伝子の3′側、約400塩基下流にマイクロサテライト多型を見いだし、Duffy遺伝子の多型との関連についても検討を加えた。その結果、ヒトDuffy遺伝子の分岐経路を予想することが可能となり、Duffy陰性の遺伝子は比較的早い時期に分岐したことが明らかとなった(Hum Genet:in press)。このことは、この遺伝子産物の機能を考える上でも興味深い結果と考えられ、今後はこの点についても検討を重ねていきたいと考えている。
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