研究概要 |
農薬中に含まれる非イオン系界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)の心血管系に対する作用ならびに作用機序をラットを用いてin vitro,in vivoの系において検討した。AEは摘出大動脈に対し緩除な収縮作用を及ぼした。この収縮作用はα_1受容体阻害薬(ブナゾシン)、細胞外あるいは細胞内Ca^<2+>の除去のいずれによっても影響を受けなかったことから、Ca^<2+>非依存生の血管収縮作用であると考えられた。またAEは摘出心房に対し陰性変時変力作用を及ぼした。AEはイソプロテレノールやCa^<2+>による陽性陰性変時変力作用に対しては競合的阻害を示さなかったことから、β受容体やCa^<2+>が関与する過程に特異的に影響を与えるものではないことが考えられた。AEをラットに静脈内投与した場合、用量依存的に心拍数と血圧の低下をもたらしたことから、AEによる循環不全の原因は心抑制作用であると考えられた。 AEの循環系に対する作用は特異的な作用機序を有するものでは無さそうである。以上の結果より、AEによる循環不全に対しては患者の心機能の低下に注意し、ドパミンなどのカテコルアミンやジギタリス製剤などを適宜投与することが必要である。また、今後は、AEの吸収の阻止、血液中からの排泄の促進、心筋細胞への取り込みの阻止について研究を進めるべきであると考えられた。 平成8年度はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(AES)を対象に実験を行なう。予備実験によればAESは血管弛緩作用と心刺激作用、ならびに心抑制作用を有することが確認されており、臨床のAESによる中毒の症例の血行動態とも合致することから、作用機序の解明と拮抗薬の効果の解明は臨床的に見て極めて重要である。
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