界面活性剤の循環系に対する影響を探る目的で、農薬や洗剤に使われる陰イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(AES)について検討した。 クレブスリンゲル液中で、ラットの摘出大動脈の等尺性張力の変化を測定した結果、AESは10^<-5>から始まり、3×10^<-4>Mに最大となる血管弛緩反応を怠起した。この反応は血管内皮の陰去、L-NAME、Oxyl Ibの前処理により著しく抑制された。従って、この弛緩反応は内皮依存性であり、NO-Cyclic GMP pathwayの賦活によると考えられた。またウシの肺動脈内皮細胞の培養系で、AESは培養液中のNOxと細胞内Ca^<2+>の増加をもたらしたことから、AESが細胞内カルシウムを増加させた結果、NOsynthaseを活性化したと考えられた。 ラットの摘出右心房と左心房を用いて、それぞれクレブスリンゲル液中で心拍数と等尺性収縮力の変化を測定した結果、AESは10^<-5>Mから始まり、3×10^<-4>Mに最大となる陽性変力作用、3×10^<-5>から始まり、10^<-3>Mに最大となる陰性変力作用を示した。 ラットの大腿動脈から動脈圧と心拍数を記録しながら、AESを静脈内に投与する実験では、0.1〜10mg/kgの投与量において、心拍数の軽度増加と平均動脈圧の著明な低下が怠起された。30mg/kgでは心拍数と平均動脈圧は共に著明に低下した。これをin vitroの結果と併せて考察するに、少量〜中等量のAESを投与した場合、血管弛緩作用により血圧が低下し、AESの直接的な陰性変時作用に比べて圧一受容体反射が強い影響を及ぼしたために心拍数が軽度増大したと考えられた。一方、大量のAESを投与した場合、AESの血管弛緩作用に直接的な心抑制作用が加わり血圧と心拍数が減少したと考えられた。 以上の結果を踏まえ、平成9年度にはAESを含む農薬による循環不全において、主成分とAESがそれぞれどのような役割を果たしているのか解明する予定である。
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