本研究の課題は、酸性薬物の血液脳関門排出過程を定量的に評価すること、及び内因性物質輸送系との関連を明らかにすることであり、本年度は以下の研究実績を得た。 実験は、脳マイクロダイアリシス法、in situ脳潅流法、静脈内投与法、脳細胞間液内投与法などの種々のin vivo実験法を用いて、酸性薬物プロベネシドおよびサリチル酸の血液脳関門透過性を血液側から脳側への流入速度と、脳から血液側への排出速度に分離して評価した。その結果、1)定常状態におけるプロベネシドおよびサリチル酸の脳細胞間液中濃度、並びに脳脊髄液中濃度は、血漿中非結合型濃度よりも低く、脳室から脳細胞間液に向けての下り坂濃度勾配と、脳細胞間液側から血液側に向けての上り坂濃度勾配が成立していた。2)脳組織内薬物量/脳細胞間液中濃度で定義される脳内分布容積は、両薬物ともに約2.5ml/g脳となり、脳細胞内への分布が確認された。3)血液脳関門排出クリアランスに対する流入クリアランスの比は、プロベネシドで約5、サリチル酸で約8となり、両薬物ともに排出クリアランスは流入クリアランスを上回った。4)プロベネシドとサリチル酸の血液脳関門排出クリアランスは、互いを阻害剤とすることで有意に低下した。 以上の結果より、プロベネシドとサリチル酸の脳移行性は制限されていて、それは上り坂濃度勾配に逆らって起こる積極的な血液脳関門排出に起因することが、定量的に明らかとなった。また、両薬物の血液脳関門排出には、相互に阻害される内因性物質輸送系の関与することが示唆された。本研究により、これまでP糖蛋白以外にはほとんど明らかにされていなかった血液脳関門排出過程に対して、酸性薬物を脳内から積極的に排除する輸送システムが存在し、それは薬物あるいは老廃物の解毒機構として重要な役割を担っていることが示唆された。また上記の結果は、薬物の脳内薬理効果および脳特異的薬物送達法の開発にとって、有意義な情報を与えるものと確信する。 本研究成果を、第17回生体膜と薬物の相互作用シンポジウム、第10回日本薬物動態学会年会にて発表した。
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