本研究課題の目的は、薬物のBBB排出速度と流入速度を分離して評価すること、及び、これまでほとんど明らかにされていない薬物のBBB排出輸送系と、生体内内因性物質輸送系との関連を明らかにすることであった。薬物には、脳移行性の低い酸性薬物プロべネシドとサリチル酸を選択した。平成7年度は、脳マイクロダイアリシス法などの種々のin vivo実験法を用いて両薬物のBBB流入過程と排出過程を速度論的に分離評価した。その結果、両薬物のBBB排出クリアランスは流入クリアランスに比べ大きく、また定常状態において、血漿中および脳脊髄液中から細胞間液中への下り坂濃度勾配が観察された。平成8年度はプロべネシドを中心に、上述のBBB排出輸送についてさらに検討を加えた。プロベネシドのBBB排出クリアランスはN-エチルマレイミドにより有意に低下し、この排出輸送には機能性の蛋白が関与していることが示された。次に、この輸送系と内因性物質輸送系との関連を明らかにするために、種々の阻害剤を用いて輸送系の特徴づけを行った。その結果、腎有機アニオン輸送系の基質であるパラアミノ馬尿酸、アミン輸送系のコリンはプロベネシドのBBB排出にほとんど影響を与えなかったが、モノカルボン酸輸送系の基質である安息香酸およびサリチル酸、また有機カチオンのN'-メチルニコチンアミドでは有意な阻害が認められた。さらにサリチル酸のBBb排出もプロべネシドおよび安息香酸により阻害された。以上の検討結果より、プロベネシドおよびサリチル酸は、BBBに発現しているモノカルボン酸輸送系に一部認識されて脳から積極的に排出され、このことが脳移行性の低い原因であることが示唆された。本研究成果は、薬物の脳移行性評価のみならず、中枢性疾患に対する薬物療法やBBB難透過型薬物の脳移行性改善法の開発にとって有意義な情報を与えるものと確信する。
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