脳高次機能改善薬としてのカルシウム拮抗薬の有用性を明らかにする目的で、顕著な学習行動障害を特徴とする遺伝性老化促進マウス(SAM-P/8)の大脳皮質と海馬の粗細胞膜におけるL型とN型カルシウム拮抗薬受容体特性を対照動物のSAM-R/1のそれと比較し、さらにSAM-P/8へのカルシウム拮抗薬の反復投与の影響を調べた。[実験成績](1)マウス脳において、(+)-[^3H]PN 200-110および[^<125>I]ω-コノトキシンは、それぞれL型およびN型カルシウムチャネルを選択的に標識することが明らかになった。(2)SAM-R/1およびSAM-P/8における(+)-[^3H]PN 200-110および[^<125>I]ω-コノトキシンの特異的結合の解離定数(Kd値)は脳部位間で有意な差異がなかったが、最大結合部位数(Bmax値)は、海馬と大脳皮質で、最も高値を示した。(3)SAM-P/8における(+)-[^3H]PN 200-110結合のBmax値は海馬で、[^<125>I]ω-コノトキシン結合のBmax値は大脳皮質で、いずれもSAM-R/1より有意に低値を示した。一方、脳組織中カルシウム量はSAM-P/8でSAM-R/1より約50%高値を示した。(4)SAM-P/8にニカルジピン、ニモジピンおよびニルバジピンを反復投与する事によって、受動回避反応潜時の増加(学習行動障害の改善)、大脳皮質と海馬のカルシウム拮抗薬受容体および脳組織中カルシウム量のSAM-R/1値への回復が認められた。一方、このような作用はアムロジピンの反復投与では観察されなかった。以上の結果より、SAM-P/8では、学習行動や記憶機能に重要な役割を演じている海馬や大脳皮質におけるカルシウム拮抗薬受容体の異常が認められることならびにニカルジピン、ニモジピンおよびニルバジピンは、SAM-P/8における学習行動障害および脳カルシウム拮抗薬受容体異常を改善することが示された。また、アムロジピンでは、他のカルシウム拮抗薬と比べ中枢作用および脳内動態に差異のあることが示唆された。
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