脳高次機能改善薬としてのカルシウム(Ca)拮抗薬の有用性を明らかにする目的で、顕著な学習行動障害を特徴とする遺伝性老化促進マウス(SAM-P/8)を用いて、Ca拮抗薬の中枢作用、受容体結合動態及び脳内動態を調べ、正常老化マウス(SAM-R/1)の場合と比較した。[実験成績](1)SAM-P/8の脳における(+)-[^3H]PN 200-110結合のBmax値(受容体量)はSAM-R/1より低値を、一方脳組織中Ca量は約50%高値を示した。(2)SAM-P/8にニカルジピンおよびニモジピンを反復投与する事によって、学習行動障害の改善、脳内Ca拮抗薬受容体および脳組織中Ca量のSAM-R/1値への回復が認められた。一方、このような作用はアムロジピンの反復投与では観察されなかった。(3)(+)-[^3H]PN 200-110を静注後3〜30分の脳内濃度推移から求めた脳内濃度-時間曲線下面積(AUC)およびその血漿中AUCとの比はいずれもSAM-P/8においてSAM-R/1より有意に低値を示した。(4)SAM-R/1とSAM-P/8に(+)-[^3H]PN 200-110を静注後の脳における特異的結合はSAM-P/8においてSAM-R/1に比べ51%有意に低値を示した。また(+)-[^3H]PN 200-110の特異的結合と血漿中濃度の比においてもSAM-R/1に比べSAM-P/8で有意に減少した。(5)[^3H]ニモジピンと[^3H]アムロジピンの静注後における脳内濃度、血漿中非結合型薬物の脳分配係数およびCa拮抗薬受容体結合量を測定したところ、これらのパラメータはいずれも[^3H]ニモジピンで[^3H]アムロジピンより高値を示した。以上の結果より、SAM-P/8では、脳内Ca拮抗薬受容体の低値が認められること、ニカルジピンおよびニモジピンはSAM-P/8における学習行動障害および脳Ca拮抗薬受容体異常を改善すること、ならびにSAM-P/8では脳内受容体の低値によるCa拮抗薬の脳内分布の減少が示された。またニモジピンはアムロジピンより脳への分布が大きいことが示され、この相違が中枢作用(学習行動障害の改善効果)の強弱に寄与すると考えられた。
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