申請者たちは、ヒト尿中より新規トリプトファン関連物質;Substance X(S.X)を見い出し、S.X測定の臨床検査領域、特に、腎機能検査における有用性を評価するための基本的検討を行った。また、生理的意義を探る目的で体液での測定も行った。 性別、年齢の影響 性別、年齢別による変動を検討した結果、血清中、尿中でのS.Xは、クレアチニンに比して、性差、および年齢による変動は小さく、ほぼ一定であることが明らかになった。 筋肉量を基にしたクレアチニンとの比較 S.Xは、筋肉量の低下のためクレアチニンのわずかな上昇にとどまる腎機能低下症例でも、鋭敏に反応することを申請者たちは示してきた。今回、患者を筋肉含量によりグループ分けし、S.Xとクレアチニンの同時測定を行い、両者への筋肉量の影響を検討した。その結果、S.Xは、明らかに、クレアチニンとは異なり筋肉量の影響は受けず、より正確な腎機能(糸球体ろ過率)を反映していることが証明された。 以上の結果より、S.X測定は、腎機能評価に有用であると考えられた。 体液での検討 生理的意義を探る意味で、髄液、羊水など体液での測定を試みたところ、S.Xは、髄液、羊水においても検出された。羊水中のS.Xは、妊娠週数とともに増加を示し、妊娠中毒症などの一部の症例において高値を認めた。腎不全の症例を除き、髄液中のS.Xの濃度は、血清の濃度を超えており、単なる血液からの移行では説明されないと考えられた。また、ある種の神経変性疾患や、脳腫瘍の症例の一部に高値検体が認められた。これらは、S.Xが神経系で何らかの生理的作用・意義を示唆するもの、と推定している。
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