遺伝性球状赤血球症患者(54例)を対象にして、赤血球膜蛋白の定量的解析を行ったところ、9例に明らかなband3蛋白減少(約15%)が認められた。そこで末梢血単核細胞よりDNAを抽出し、band3蛋白遺伝子を詳細に解析した。19のエキソンを解析するためプライマーを合成し、54例の患者についてそれぞれのエキソンをPCR法にて増幅後、SSCP法にて変異の有無をスクリーニングした。異常なSSCPパターンを呈し変異の存在が疑われる領域については、検出されるたびにDNAシークエンシングによって変異を同定し、また制限酵素を用いた解析により変異の存在を確認した。その結果、現在までに9種類のband3蛋白遺伝子変異を見い出した。1例はフレームシフト変異、5例はミスセンス変異、3例はスプライス部位の変異であり、全例それぞれの変異のヘテロ接合であった。また、2例(症例1:Princetonおよび症例6:Prague II)はJarolimらが1995年に報告した変異と同一であり、他の変異は今までに報告のない新しい変異であった。これらの症例では変異アリルに由来するband3は赤血球膜上には証明されず、mRNAや変異蛋白が不安定であるか、または変異蛋白の膜への挿入障害のためband3減少をきたし、その結果ankyrinや細胞骨格蛋白のassemblyが障害されHSを惹起するものと推定された。 Band3減少を呈するHSは、最近欧米で多数報告されているが、我が国でも15%程度存在するものと思われ、本症の主要な病因の1つであることが明らかとなった。しかしながら、また依然として病因の不明な症例が多数あり、今後はankyrinについての詳細な解析が必要である。
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