平成8年度の計画にしたがって、保育者が抱擁刺激を与えた時、その抱き方の違いによって児の反応に違いが生ずるか否かについて観察した。 具体的には、健康で正常な乳児のうち、あらかじめ作成した対象選択基準に合致した児を対象に、保育者の抱擁による刺激を与えた。抱擁刺激には、我が国でも一般的な抱き方である、児の頚部を右手掌で、また臀部を左前腕で支える「縦抱き」と、左肘で頭部を支え、左前腕で児の身体全体を支える「横抱き」の二方式を用いた。また、コントロールとして児を抱きあげることなく接触のみを目的として、胸部から足までの全身に950gの布団をかけるだけの刺激を与えた。児の敏活性は、表情、目、口の変化をチェックリストに従って観察し、その出現回数の合算とした。生理的指標の測定装置には、アトム株式会社製ネオナータルモニタを用いて、瞬時心拍数、呼吸数、末梢体表面温度を測定した。 結果は以下のごとくである。 1.刺激中の児のstateの変化をみると、「縦抱き」は刺激開始20秒後から速やかにstateの変化が認められたが、その後の下降はゆるやかであった。 2.「横抱き」は刺激開始40秒以降から有意にstateの変化が認められ、その後も鎮静化傾向が持続した。 3.布団をかけるだけの児はstateの変化は明らかでなかった。 4.刺激中の2分間の敏活性得点を比較すると、「縦抱き」は「横抱き」やコントロールに比べて、児を敏活にする傾向が認められた。 5.心拍数では、「縦抱き」は刺激前に比べて有意に減少し、コントロールでは逆に有意に上昇した。 以上のことから、「抱く」という刺激には児を泣き止ます効果があることが確かめられた。また、「縦抱き」は児を泣き止ますのに即効性があり、児の敏活性を高める効果があり、「横抱き」は児を泣き止ますための即効性はないが、泣き止んだ後に入眠に導く効果のあることが認められた。 今後は、これらの特徴を育児に利用することにより、母子相互作用をより容易に導くための戦略を検討する必要がある。
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