研究概要 |
1.研究内容:平成7年度の調査に引き続き,今年度は特に不妊治療により妊娠・出産した女性のセクシュアリティと夫婦関係に焦点をあてて分析を行った. 2.研究方法 1)調査対象:新潟県内の不妊・多胎の自助グループ,一般市民に呼びかけ,自発的に応募した協力者を調査対象とした.対象は女性9名で内訳は治療断念後の自然妊娠1例,排卵誘発4例,人工受精3例,ホルモン治療1例である.2例は夫婦ともに不妊因子をもつカップルであった.2)調査方法:研究者2名が自宅訪問し,直接面接・自由会話方式による聞き取り調査実施.面接時間は約2〜5時間(面接1〜2回)である.面接時記録とテープの録音内容を逐語記録化した情報を分析・考察した.分析視点は前年度と同様である. 3.結果:対象の調査時年齢は29〜49才,子ども数は1人が5例,2人をもつ4例のうち1例は3人目の妊娠中である.続発性不妊1例を除く8例の第1子は不妊治療による妊娠・出産,第2子をもつ3例と今回3人目を妊娠中の1例はいずれも予期せぬ自然妊娠であった.夫婦のセクシュアリティはほとんどが不妊治療のために妊娠目的のみのものとなっており,夫婦双方に心身の葛藤をもたらしているだけでなく,出産後にもさらに性をめぐる新たな軋みを生じていた.特に不妊のためセルフエスティームが低い対象ほど挙児後は「性交嫌悪」のストレスを感じ,夫婦の問題が深刻化する傾向があった.こうした対象ほど妊娠・出産・育児を理想化し,現実とのギャップを強く感じていた.また一人子では可哀相という妻の育児観と夫の意識とのずれは,夫に対し次子の妊娠努力への非協力的態度として妻側の不満につながっていた.一方,予期せぬ自然妊娠は,自己の生殖能力に対する認識の修正と人生計画の変更に迫られることになり,夫婦で妊娠の受けとめ方が異なる場合は夫婦間の緊張をもたらすことが示唆された. 4.まとめ:今回の調査から不妊治療時の夫婦関係はその後の夫婦の危機を内包する場合があることがわかった.しかし,不妊治療の経験を通して夫婦関係や育児をより肯定的に受けとめている事例も見られている.来年度はこれらをもとに不妊治療後の妊娠カップルへの支援のあり方を追求する.
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