研究概要 |
1.研究内容:平成8年度に引き続き,今年度は不育および続発性不妊の各1事例,排卵誘発剤による品胎妊娠の1事例に対して,自宅訪問の直接面接による聞き取り調査を実施した。平成7年度,8年度の事例19例に今年度の調査事例を加え,今年度は特に不妊と不育,単胎と多胎妊娠における問題の違いに焦点をあてて分析を行った。さらに,さらに,本研究課題に対する22事例の総まとめとして,事例全ての聞き取り会話を記述化し,センテンス毎に分解したデータによる分析・解釈を行った。データは,不妊治療前,不妊治療中,妊娠判明時,妊娠経過,分娩経過,産褥育児,現在に分類し,それぞれについて会話の意味に解釈を加えた。この結果をもとに,不妊治療後における妊娠,出産した母親のセクシュアリティと母子関係について考察し,論文を執筆した。 2.結 果:不妊と不育症とでは,女性のセクシュアリティやセルフエスティームに違いがみられた。前者の方が自己の妊よう力に対する不全感から自己否定感は強い。不育の場合は,流産による児への喪失感が強く,不妊治療による妊娠事例に比べて妊娠中は妊娠および児の受容が遅れる傾向があった。しかし,産後の児に対する受け入れは良好であった。多胎妊娠の事例は,児に対して平等に愛せないことの自責感があり,対児感情の悩みを抱えていた。これは,不妊治療の有無に関係なく,多胎育児に共通する問題と考えられた。また全事例でみると,不妊治療によって子どもを得た後は次子妊娠への期待が強く,不妊治療開始の悩みの内容は初回とは異なることが浮き彫りとなった.さらに多胎妊娠に限らず,不妊治療の結果として何らかの健康不安をもち,将来の身体への影響を危惧しているものも少なくなかった。このように,本研究から,治療後の妊娠は必ずしも不妊時の問題を解決するものではなく,セクシュアリティや母子,夫婦関係に新たな葛藤を生じる場合も少なくないことが明らかになった.
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