研究概要 |
手術前の呼吸パターンは手術後の呼吸管理に影響を与えると言われている.そのため,手術前から手術式にあわせた呼吸練習を実施している.しかし,現在,呼吸練習の効果は,胸部・腹部の動きを視覚的にとらえているため,効果の有無を判定することは難しい. そこで,上腹部手術後の無気肺予防のために実施する手術前の胸式呼吸練習の効果を明らかにすることを目的とし,胸式呼吸練習を5日間実施し,その効果を検討した. まず,呼吸練習開始前と5日間の練習終了後の呼吸機能を測定した.次いで,胸式呼吸時の胸郭動作と腹部動作パターンを測定するため,呼気・吸気時の胸郭と腹部の動きをインピーダンスプレチスモグラフ,サーマルレコーダを使用して測定し,さらに,胸式呼吸時の1回換気量を練習開始前と練習終了後の5日目に測定し両者を比較した. 対象は健常者20名で,年齢の平均は,31.6±13.1歳である. 呼吸機能は,練習開始前と終了後の5日目では変化は見られなかった.胸式呼吸時の胸郭動作と腹部動作は,仰臥位において練習開始前と比べ5日目では胸隔動作が増大(開始前は8.5±4.5mm,5日後は11.3±6.9mm)し,腹部動作は縮小した.また,胸式呼吸時の1回換気量は開始前よりも5日目が増加し,その増加率は12%である. 以上から,呼吸練習開始前と終了後の5日目の「胸郭動作」「1回換気量」を比較すると5日目が両者とも増加していることから,5日間の胸式呼吸練習は効果があったと考えられる.すなわち,手術前に手術式に合わせた正しい呼吸練習を行うことにより手術後の呼吸器合併症の予防が図れることが示唆された. 但し,今回は健常者を対象にしたが,現在,上腹部手術を受ける患者にも実施中であり,サンプル数を増やし胸式呼吸練習の効果と無気肺などの呼吸器合併症の発生との関係を調査し,術後の呼吸器合併症予防のための効果的な呼吸練習の方法を考えていく予定である.
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