冬季や寒冷暴露環境における手指局所寒冷に対する生理反応を研究する場合、一般的には氷水中に手部を浸漬する冷水負荷試験が用いられている。しかし、氷水中に手部を長時間浸漬することは著しく苦痛を伴い、しかも水中での手指皮膚温は測定し難い。本研究では、より簡便で心理的苦痛の軽減される寒冷負荷方法として、冷風負荷試験に着目した。共同研究者の井上らが発案した冷風負荷皮膚温テストがそのひとつであり、被験者に著しい苦痛が無く、客観的にレイノ-現象を主徴とする末梢循環動態を把握できる点で極めて優れた検査法とされる。この冷風負荷皮膚温テストを、従来の冷水負荷試験に代わる方法として開発することを目的とした。 本年度は、この冷風負荷皮膚温テストの特性を、冷水負荷試験との相違により検討した。被験者は健康な成人女子とし、食後2時間経過後の午前中に、室温23℃で実験した。手指局所寒冷負荷は、(1)冷風負荷試験:冷風負荷試験機を用い、5℃冷風に暴露する方法、(2)冷水負荷試験:恒温水槽中で5℃冷水に暴露する方法とした。負荷時間は20分間、姿勢は椅座位とした。測定項目は手指および手部皮膚温、身体各部皮膚温、心電図、血圧とし、同時に連続サンプリングした。実験の結果、指尖皮膚温は、冷風負荷試験および冷水負荷試験いずれも、負荷開始直後に顕著に低下しその後に上昇するハンチング現象を示すタイプが多く、一過性に低下した後の上昇が見られないタイプも出現した。冷風負荷試験では、初期の指尖皮膚温低下が緩慢なタイプも出現した。収縮期血圧は、冷水負荷試験では負荷開始直後に一時的に急激な上昇を示す傾向にあったことから、冷風負荷試験の方が血圧への影響は低いと考えられる。これらの結果から、冷風負荷皮膚温テストは、手指局所寒冷負荷による皮膚温変化を測定する方法として有用であることを示唆した。
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