前年度に作成された模擬足を用いて、実験室内で血流量変化による内部温度分布や床表面の接触温度を測定し、シミュレーションを行った。模擬足の材料特性値の同定作業を行った結果、定常状態における数値計算の推定値と実測値の比較では、両者は極めて良好な一致をみており、乖離幅は温度にして1℃程度である。なお、このときの血流量は、危険側考慮のための血流量なしの場合、一般の血流量を想定した場合、なんらかの理由で血流量が正常時の2倍になった場合の3ケースを試みた。また、途中で血流量が変化するなどの比定常状態においても、計算結果はおおまかに実験結果を追尾するようで、本来の使用目的への途が開けつつある。さらに、実際の床暖房住宅のフィールド調査も併せて行った。都心部の集合住宅の一室を改装し、温水式床暖房を施した一般住戸で、約5日間の連続被験者実験を行った。現在の床暖房の表面温度を規定しているBL法による閉塞温度も同時に計測し、現行のBL法による閉塞温度では、容易に50℃に近づく接触温度もみられるが、実際の人体による接触温度では、せいぜい40℃前後となり、温水温度幅を考えても、BL法による接触温度の推定には無理のあることが判った。また、先に述べた模擬足シミュレーションに用いた数値解法を、実際の人体接触温度のシミュレーションに用いたところ、定常状態では、実用上は十分な精度で計算可能であることが判った。この結果から、模擬足と実際の人体接触温度の間の関係式を探り、本来の目的であった、模擬足単独による床暖房の表面接触温度の評価への足掛かりとすることができた。
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