最終年度なので、規準の提案の基礎となる許容温度の厳正な確認の意味をこめて、再度、高温接触条件での安全性を確認する実験を行った。実験は、2名の被験者に対し、60℃〜75℃の温水入口温度を供給して接触温度を測定したところ、着衣がある状態ではタンパク質変性温度を越えることはなく、安全であることが確認された。ただし、危険側の条件が不幸にして重なった場合、すなわち泥酔や身障者などで自由度がきかない場合に、長時間裸体で床接触したときは、タンパク質変性温度を越えてしまう。したがって安全規準としては、温水器側に温水温度の上限制約として60℃を厳守するよう法的整備を整えれば、こうした問題は生じ得ないことが判る。 一方、そうした制約を課せられた場合、住宅の断熱不十分が災いして暖房が快適に行われてなくなる可能性が出て来るので、施工時点で床暖房の可否を判断できる模擬足を開発することは、いっそう重要になる。このため、前年から引続き、実験室内で血流量変化による内部温度分布や床表面の接触温度を測定し、シミュレーションを行って、実際の温度評価が正しく行える模擬足とした。ただし、現状の模擬足は温度維持のための水槽を内蔵しているので、持ち運びには不都合な大きさとなっており、とくに冷却装置を電子制御部品に発展的に考案するなどの対策が強く望まれる。また、血流障害など高齢者を意識した細胞組織の模擬も行いたいが、実験での血流計測に問題を抱えており、現在のところは健常者を対象にした模擬足の開発しか手が付けられておらず、本来、もっとも危険側の対象を扱えないでいる現状を考えると、今後に問題を残している。
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