我々は高分子と水の関わりについて天然に存在する材料を対象として様々な観点から検討を続けている。現在自然界に大量に存在しながら、有効利用されていない資材としてキチン・キトサンが挙げられる。これを活用する方法として機能性を付与するため、高分子の複合体の調製が考えられる。従来の研究結果から、天然高分子を基とし高度の吸水性、適度の弾性を備えた複合体を調製するには、分子内にイオン性官能基を有する高分子を対象とし、その一方は環状構造を有することが必要な条件とされた。 そこで今回はカチオン性多糖類としてキトサン、アニオン性多糖類としてヒアルロン酸を繰り返し単位モル比で1:9から9:1の間を5段階とし、20%ギ酸溶液に1.2%濃度で攪拌溶解した。混合液は保形性を良くするため、50℃まで更に攪拌加温した。これをデフロンシャーレに流し入れ、ドラフト下でキャスト法により無色透明フィルムを得た。これをエタノールで洗浄後真空乾燥した。調整中のゲルの外観、仕上がりフィルム、吸水膨潤後の状態は写真撮影した。また調整フィルムの厚さは、膜厚計で計測し、フィルムの物性測定値の条件に用い、TMA-SSによる弾性率、損出エネルギー値を算出した。調整フィルムの吸水膨潤度は、水、1/10規定の水酸化ナトリウム及び1/10規定ギ酸溶液に30分間浸漬した場合の結果を比較した。その結果、キトサン過剰側の9:1で最大吸水膨潤度の約300倍を示した。ヒアルロン酸過剰側(特に1:9組成比の場合)は、保形性に欠けるフィルムとなった。酸性溶液或いはアルカリ性溶液に浸漬した場合の吸水膨潤度は酸性側ではヒアルロン酸過剰側、アルカリ性側ではキトサン過剰フィルムの吸水膨潤度が抑制されていた。フィルムの弾性率は組成比3:7から5:5付近で最大値となった。これらのデーター処理解析にNECパソコン統計処理解析装置を使用した。フィルムに吸水された水の状態のDSCによる分析、並びに食品資材としての利用方法に関しては現在検討中である。
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