平成7年度の研究においては、わが国の福祉政策の基本的考え方に深く影響を与えてきた「日本型福祉社会」論への批判をとおして、(1)高齢者の扶養と介護のあり方を社会的視点から捉えなおすこと、(2)介護労働の社会的評価をその経済的評価の意義と限界を踏まえて明らかにすることを課題とした。この課題にそって研究を進め次のような結論を得た。それは、現段階での福祉政策は、高齢者の扶養と介護を基本的に家族の責任とする「日本型福祉社会」論の考え方から根本的に脱しておらず、そのため家族による高齢者介護の金銭的・労働的負担について過少評価があるというである。そのため平成6年度から全国の各市町村で実施されはじめた「老人保健福祉計画」においても、家族の無償の介護労働を前提とした計画目標値が揚げられており、ホームヘルパー等の社会サービスの質と量が、住民が必要とする水準からはほど遠いということである。 さらに近年注目されつつある非営利民間団による福祉サービスについて聞き取り調査と文献研究をおこない、このようなサービスと家族による高齢者の介護や公的機関による介護サービスとの関連について考察した。現状では、このようなサービス形態は実験段階にあり、その動向についてはしばらく注目する必要があると思われるが、その際とくに、ボランタリーな活動の積極性を活かしつつ公的責任のあり方について探究する視点が重要であると思われる。
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