わが国では、在宅で高齢者を介護する家族に対しては、自治体が見舞い金程度のわずかな額の手当てを支給しているにすぎない。この研究では、高齢者を介護する家族に対し公費を支給する社会的合理性とその給付水準について考察した。その際、全国の市町村が策定した「老人保健福祉計画」の検討をとおして、社会における高齢者像の転換の必要性、高齢者への社会サービスの普遍的性格、高齢者扶養の社会的責任について検討し、介護手当ての水準については、当面はパートタイマーの賃金水準からの引き上げを課題としつつも、将来的には全男女労働者の平均賃金水準の実現が必要であることを論じた。 また、介護労働の供給については、家族のみに依存することは客観的に困難となっており、公的責任の確立とともに民間非営利団体の活動の可能性についても検討すべきとの視点から、生活協同組合における「くらしの助け合い」活動について調査し、その活動に期待されるべきことは、行政の補完ではなく、行政の責任の追求とサービス水準の向上を実現するための実践的批判者としての役割であることを論じた。 さらに社会的関心を呼んでいる公的介護保険についても、公的責任と規制緩和という視点から検討し、社会福祉サービスの客体から主体への転化という展望の下に、従来の措置制度の改善と住民の行政参加のあり方について考察した。社会福祉サービスの水準を決定するうえで、高齢者および家族がどのように関わるのか、その権利の性格はどのように考えるべきかが、次の課題となる。
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