脳の生理・病理両面におけるCaの多彩な役割を背景に、中枢神経系への局在ないし高度濃縮が推定され、当座セファロカルシンと呼んでいるCa結合蛋白質の多様性の問題に焦点を当てた。まず、電気泳動上の多型性で示されるセファロカルシンのクラスター構造が脊椎動物の脳における普遍的特性であることが判明した。さらに、ウシ脳幹を材料とするセファロカルシンクラスター大量精製法を確率し、複数の分子型の単離・精製を達成した。また、各分子型は遊離のチオールを持ち、分子内・分子間のジスルフィド結合の形成により生じる亜型も存在するが、還元アルキル化した二つの分子型のペプチドマップは、少なくとも一つの固有のペプチド断片を与えた。一時構造を含めたペプチド構造の解析は未だ完成していないが、今後も継続的に取り組んで行く計画である。一方、ウシ脳幹のセファロカルシンを免疫原に作成した高力価の特異抗血清は、ラットやニワトリのセファロカルシンと交差し、ラット脳内局所のパンチアウト片や、ニワトリ胚から得た微量試料における高感度のイムノブロッティングによる分析を可能とした。これに基づき、セファロカルシンの分子型の存在比がらラットの中枢神経系の局所において異なること、またニワトリ胚の発達過程においても分子型ごとに消長のパターンが異なる傾向にあることなど、興味深い知見を得た。また、セファロカルシンが亜鉛やマンガンを、Ca結合部位とは別の部位で結合することが示された。これに関連して亜鉛の栄養状態の擾乱時のセファロカルシンの量的あるいは質的変動を調べ、亜鉛欠乏食摂取によるセファロカルシンクラスターのレベルの低下、これに亜鉛を腹腔内投与することによる24時間以内の回復の傾向を認めている。のみならず、分子型の存在比も動き漕な手応えを得ている。以上、今回の研究期間を通じて、電気泳動等で示されるセファロカルシンの多様性をペプチド構造の差異という分子的実体と捉えるところまで至った。脳内局所における分子型の分布パターンの違い、生理的変化や栄養状態の擾乱に伴う変動は、この多機能性(Zn結合性/有機リガンド結合性/反応性チオールの存在より)カルシウム結合タンパク質の分子多様性が生理的に意義深い可能性を強く支持する。
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