タンパク質栄養の必要量はライフスタイルに適応し変化するものと考えられる。そこで、すでに成長を終えた高齢ラットにタンパク質含量の異なる飼料を与え、体成分の変化と増殖関連遺伝子の発現変動を観察し、生体のタンパク質栄養への適応能と適応機構を検討した。 【方法】7ヶ月齢の雄SDラットを1ヶ月間20%カゼイン食にならした後、それぞれ0、5、10、20%カゼイン食の4群に分け、さらに53日間飼育した。実験開始日からの1週間と最終日の窒素出納を測定するとともに、開始日と最終日の体脂肪および除脂肪体成分比率をEM‐SCANを用いて測定した。さらに、肝臓からPoly(A^+)RNAを調製しノーザンブロット法にてインスリン様成長因子I(IGF‐1)mRNAを定量した。 【結果と考察】5%カゼイン食群と10%カゼイン食群の窒素出納は1日目には大きく負に傾くが前者は4日目に、後者は2日目に窒素平衡0に戻り以後この状態を維持した。無タンパク食群の体重は実験開始から約20%減少したが、このほとんどが除脂肪体成分の減少によるものであった。他の3群はいずれも除脂肪体成分を維持した。肝臓でのIGF‐1 mRNAの発現量を比較してみると、5%カゼイン食群でその発現量は非常に低く無タンパク食群とほとんど同じであった。一方、10%カゼイン食群と20%カゼイン食群では、両群間に差はなく高いIGF‐1の発現量が観察された。以上の結果から、高齢ラットは5%というタンパク質含量の低い食餌でも適応し、窒素平衡と除脂肪体成分を維持することが明らかとなった。しかし、IGF‐1の発現量は無タンパク質食同様に低いことから、これらのラットは代謝回転や生体機能を抑制することによって体成分の恒常性を維持するものと考えられる。
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