生体成分の酸化的損傷は、種々の疾病に関与し、抗酸化性物質によって防御可能と考えられる。抗酸化性物質の中で特にカロテノイドは、発ガン予防などその生体内における役割が注目されている。放射線照射は、生体成分の酸化的損傷を惹起する。そこで本研究は、マウスにX線を全身照射して骨髄に酸化的損傷を惹起させる実験系において、カロテノイドの生体内における抗酸化作用と染色体損傷抑制作用を検討した。 実験動物として扱い易いマウスやラットは、カロテノイドを極めて吸収し難いという問題がある。そこでマウスがカロテノイドを組織中に蓄積し易い実験飼料を検討した。その結果、飼料中にカロテノイドとともにコール酸Naを添加することで、カロテノイドの組織内濃度が著しく高まることを明らかにした。その飼料中コール酸Na濃度は、ビタミンEと脂質の組織内濃度が著しく変化しない0.05%程度が適当と考えられた。次にこの飼料条件で、種々のカロテノイド食を摂取させたマウスにX線を全身照射し、骨髄における染色体損傷度を抗酸化ビタミン濃度の変化を踏まえて検討した。その結果、天然カロテノイドであるパーム油カロテンやドナリエラβ-カロテンを摂取させたマウスでは、X線照射による骨髄染色体損傷が抑制された。しかし、合成のβ-カロテンやビタミンA作用のないリコペンやカンタキサンチンを摂取させたマウスでは、X線照射による染色体損傷が抑制されなかった。X線照射により骨髄中のビタミンEとC濃度は著しく低下したが、カロテノイド濃度は、X線照射により低下せず、ビタミンEやCの低下にも全く影響を及ぼさなかった。プロビタミンA作用のあるカロテノイドを摂取させたマウス肝臓では、ビタミンA濃度が有意に高かった。天然カロテノイドがX線照射により誘発した骨髄染色体損傷を抑制する機構を明らかにするには更に詳細な検討が必要と考えられる。
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