前年度の研究を受けて、本年度の研究では、ビタミンEが肺腺癌の予防に有効であることを裏付けるために、細胞増殖と発癌遺伝子であるk-ras遺伝子の変異という点に絞って、ビタミンEによる発癌過程における細胞増殖と発癌遺伝子の変異に対する修飾作用について、解析した。 その結果、ウレタン投与したマウスの肺腺癌発生初期過程において、肺胞II型細胞(腺癌の前駆細胞)のBudRのlabeling index(細胞増殖の指標)の上昇及びオルニチン脱炭酸酵素(ODC)の誘導(細胞増殖に不可欠な酵素)が認められた。また、ウレタン投与により発生する肺腺癌に認められると同じ k-ras遺伝子の変異が発癌初期に認められた。一方、ビタミンE(摂取レベルは通常食の10倍)はこれらの発癌初期で認められた細胞増殖や発癌遺伝子変異の発生頻度を有意に抑制した。また、発癌実験においても、ビタミンEは肺腺癌の発生(発癌したマウスの割合とマウス1匹あたりに発生した平均腫瘍数)を有意に抑制した。以上の今年度の結果を総合すると、ビタミンEには、日常生活で摂取可能なレベルで、肺腺癌発生初期において、発癌に直結する細胞の異常増殖や発癌遺伝子の変異を抑制することにより最終的に肺腺癌発生を抑制しうる事が示された。これらの実験結果は、肺腺癌の化学予防におけるビタミンEの有効性を裏付けるものと考えられる。
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